最近テレ東のフェイクドキュメンタリーシリーズの最新作『魔法少女山田』が始まりまして、リアルタイムで追いかけながら考察を楽しんでおります。
その流れで、今まで見れていなかったテレ東過去作のホラー作品を鑑賞しており、今回取り上げる『祓除』がかなり秀逸で不気味だったので考察しながらご紹介します。
時代の流れのせいか、ホラー特番などがめっきり減った昨今…
こうしてテレビ局がホラー系コンテンツに力を入れてくれているのはいちホラーファンとしてもかなり嬉しい状況ですね。
『祓除(ふつじょ)とは』
『祓除(ふつじょ)』は2023年にテレビ東京が開局60周年記念企画として開催したイベント、かつフェイクドキュメンタリーホラー作品です。

開局記念イベントにガッチガチのホラー企画ぶちこんでくるテレビ東京、最高すぎるな。
祓除とは、主に神道や仏教の儀式において穢れや災いを取り除くことを意味し、不浄や災厄を清めるための行為を指します。
この企画は、穢れや禍とみなされてきたテレ東の映像や物品を無害化するための「祓除の儀」を執り行う式典という位置付けです。
「事前番組」、「祓除(本編)」、「事後番組」の3部構成になっており、2つ目の祓除本編は実際に横浜の赤レンガ倉庫で観客を入れてイベントが開催されました。
有料でのライブ配信も行われていたようです。
全編と通してかなり不穏要素のある作品であるものの、一度見ただけだと何が起きたかわからない、どういうことだったのか分かりにくい要素もあるので、ここからは私の考察を交えながら解説していこうと思います。
『祓除』はU-NEXTで全作品を視聴可能です。
「事前番組」と「事後番組」はテレ東の公式YouTubeでも視聴できますが、肝心の本編はYouTubeにはアップされていないので、ネタバレなしで『祓除』を楽しみたい方はU-NEXTでお楽しみ下さい。

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ざっくりあらすじ・概要解説
まずは超ざっくりですがあらすじのご紹介。
事前番組
主に『祓除』開催に至った経緯と、祓除師である「いとうよしぴよ」氏について紹介する番組。
祓除に至った経緯は詳細に解説されるわけではないのですが、冒頭のインタビュー音声を聞く限りでは、心霊番組を企画していたプロデューサーが自◯してしまい、これが幽霊が写ったVTRや視聴者から送られてきた不気味な手紙など、忌み物に関わってしまったからではないかと噂が立ったことが一つの発端のようです。
そのほか、視聴者からのお便りを紹介する音声テープや意味不明なクレーム電話の音声が紹介されていましたが、これらがテレ東に集まった禍や穢れの一部ということなのでしょうか。
これらを祓除することで、テレ東の今後のさらなる発展を願うと、そういった経緯で企画が持ち上がったと推測できます。
その後、今回の企画で祓除を執り行う祓除師「いとうよしぴよ」氏の密着ドキュメンタリーに移ります。
いとうさんは51歳の男性で、祓除師と俳優を兼業。
高校生の時にオーラのようなものが見えるようになったとのことです。
インタビューの中で、いとうさんの行う祓除はよくある霊を消し去るようなものではなく、
「敬鬼神而遠之(キシンヲケイシテコレヲトオザク)」という「霊を敬い、遠ざけた中で向き合い方を模索する」という思想で行われていることが語られます。
密着インタビューの最後は、いとうさんが過去に祓除を行った霊に挨拶にいくために山中の滝を訪れるシーンで締めくくられていました。
本編
祓除本編は2023年11月に横浜の赤レンガ倉庫でステージを設営して実際に行われました。
現場での観覧のほか、有料でリアルタイム配信もあったようです。
内容としてはいとうさんがあらかじめ祓除して「無害化した」いわく付きの映像たちを観客に紹介しながら祓除の儀を執り行うといったもの。
これらの映像は全て視聴者からテレビ東京に寄せられたものとのことでした。
祓除が行われたのは以下の映像たち
- 高校生くらいの男子たちが心霊スポットとされる商業施設内を撮影した映像
- 親子が謎のサイレンと飛行物に遭遇する映像
- 亡くなった母親が写っているという交通事故のニュース映像
- 深夜の山道で立ち往生したサラリーマンに遭遇する映像
- 毎日同じ時間、場所に現れる女の霊の映像
- 1999年にノストラダムスの予言を信じてシェルター生活をしていた男性の映像
紹介される映像は不穏さや違和感のあるものばかりでした。
司会からいとうさんに映像の解説を求められる場面がしばしばありましたが、専門外な部分も多いためか、いまいち要領を得ない説明が多い印象。
一通りの映像の紹介が終わったところで締めくくりの祓除の儀を行いましたが、いとうさんは「みなさんの調和が達成されました」と言い残すと足早にステージを去ってしまい、司会のアナウンサーが困惑しながら終了の挨拶をして『祓除』は幕を閉じます。
事後番組
事後番組では、番組の進行を無視してステージから退場した後のいとうさんの様子が収められていました。
「祓除が進むにつれて白い顔の観客が増えていった」
「これはあなたたちが仕込んだのか?」
と狼狽するいとうさん。
スタッフは誰もそんな仕込みなどは行っていませんでした。
その後、いとうさんと連絡が取れなくなってしまいます。
イベント終了後、超心理学の研究者から「いとうさんの祓除について忠告することがある」旨の連絡があり、スタッフと会うことに。
いわく、いとうさんが取り行った儀式はいわゆる「お祓い」的な儀式ではなく、「見鬼の才」と呼ばれる「霊が見える能力」にまつわるものであり、決して良い儀式ではないとのこと。
「どういった経緯であの儀式をやることになったんですか?」とスタッフを問い詰める。
実は、いとうさん自身は祓除師でもなんでもないただのスピリチュアル好きな俳優で、あくまで番組側がそれらしい雰囲気の人物をキャスティングしたに過ぎなかった。
祓除の本番でよくあるような除霊の儀式を行うと有識者からのツッコミが入ることを懸念した番組スタッフは、いとうさんに「それっぽい儀式」を考えてもらうように依頼。
イベントで行われた祓除の儀は、いとうさんが考案したオリジナルの演出だった。
音信不通だったいとうさんとようやく連絡が取れた番組スタッフは彼の家に向かう。
そこで、あの儀式で使用していた映像は、いとうさんが独自に入手した心霊商材のUSBメモリに入っていた映像をそのまま流用した物であることが明かされた。
いとうさんのインタビューの様子を記録したビデオカメラには、真っ黒なノイズだけが写っていた。
考察・解説
要するにどういう話だったの?
「結局この『祓除』ってどんな話だったの??」と思う人も多いでしょう。
イベント本番もそうですし、劇中でわかりやすい説明もあまりなかったですからね。
このストーリー、私の解釈では、
「テレ東があくまでフィクションの一環として『祓除』イベントをやろうとしたら、祓除師の真似事をしたおじさんがマジもんの儀式をやらかして観客と視聴者を巻き込んでしまった」
といった感じだと思います。
その裏付けとして、『事後番組』では以下のような要素が読み取れました。
- 番組側は「あくまでフィクション」とての制作を意図していた
→番組側は「スピリチュアルに造詣が深い俳優」としてキャスティング会社から祓除師候補を募集
この時点で、本物の祓除師をキャスティングする気はなく、あくまでフィクションとして制作する姿勢が分かる - いとうさんに「あくまで舞台・演技のお仕事と思って」と説明し、あくまでキャラクターとして「祓除師」を演じてもらっていた
- いとうよしぴよさん本人の口から「私はお祓いとかできないです」との発言
- リアリティを重視するため、既存のお祓いではなく、いとうさんにオリジナルのお祓いを考案してもらうよう頼んでいた
→しかしその儀式が「見鬼の才」呼ばれる類のマジモンの儀式であったことが判明。
実行したいとうさん、儀式に参加した観客などが霊のような物が見えるようになって困惑。
これの内容から、あくまで番組の制作スタンスとしてはフィクション・ホラー系エンタメとして『祓除』を開催しようとしていたことが読み取れます。
超リアルな視聴者巻き込み系ホラー作品というわけです。
いやほんと、こんなガチホラーイベントをよく周年企画にぶち込んだなテレ東…(褒め言葉)

視聴者巻き込み型のホラーってことで、ネトフリの『呪詛』を連想しました
いとうよしぴよさんが行った「祓除の儀」は結局なんだったの?
先にも話した通り、いとうさんが行った祓除の儀は、呪いや霊を祓うような儀式ではなく、「霊的なものが見えるようになる呪い(まじない)をかける儀式」だったと考えられます。
研究者いわく「見鬼の才」というものにまつわる儀式であることが語られており、『祓除』イベント本編で行われた儀式の様子を見てもそういった要素が随所に見られました。
霊を消し去るというよりもむしろ拡散や同調を促したり、立体視のような奇妙な映像を見せるなど催眠に近い印象です。
「チャンネルを合わせる」「調和する」などの言葉を多用していたことも、儀式の意味合いを表しているように思います。
実際、作中でも儀式に関わった人が何かが見えるようになった描写がいくつもありました。
- イベント参加者へのインタビューで「何か変な物が見えるようになった」という男性
- 視聴者から寄せられたメッセージ「夫を亡くしてふさぎ込んでいた母が、祓除の配信を見てから元気を取り戻した(儀式を通じて亡くなった夫の姿が見えるようになった?)
- VHSの映像に母の姿が見える女性(儀式後は「これは母じゃない」と言うようになった)
- いとうさんが祓除中に見た「白い顔の人」
テレ東に寄せられていた一見電波っぽいクレームも、こういった儀式に詳しい人がいとうさんの行っている儀式を見て「これはやべぇ」と気付いて送ってくれた本物の警告文だった可能性が高いと考えられます。
「お前らあんなやばい儀式を公共の電波で、しかも視聴者の目の前でやるなんてどうかしてるんじゃないのか?」と。
最終的に、儀式を実行したいとうさんはインタビュー中にカメラに写った姿が真っ黒であったように、「なにか」に取り憑かれてしまったのではないかと考えられます。
いとうよしぴよさんはなぜ儀式を成立させられたのか
私が気になったのが、なぜただ祓除師を演じていただけのいとうさんが、見鬼の才の儀式を成立させられたのか。
いとうさんはあくまでただのスピリチュアル好きのおじさんで、特に霊能力のようなものがあるわけではないと思います。
オリジナル儀式を考案するにあたって通販で購入したUSB方式の心霊系教材の内容をそのまま流用したという状況です。
このUSBの出所は劇中では「通販で購入した」という情報しかなく、それ以上の詳しい出どころの情報はありませんでした。
いとうさんもよくそんな怪しいものを買ったなぁとは思いますが、もともとスピリチュアル系統の本やアイテムをいろいろ持っていたみたいなのでそういったアイテムを買うことに抵抗が薄かったのでしょう。
USBに関する詳細な情報がないため完全に推測の域は出ませんが、いとうさんが儀式を成立させられた要因として以下の2つが考えられるかもと思いました。
- 儀式の方法がガチで、誰がやっても効果が得られるものだった
- いとうさんに実は霊能力的な素質があった
①儀式の方法がガチだったから
USB教材の儀式がマジモンで、誰が実行しても一定の効果が得られるような代物だったからという仮説。
(そんなガチな儀式ノウハウを胡散臭い通販で売るなよとは思いますが…)
USBに収められていた動画は、デイジーやカモミールのような白と黄色の花(?)の立体視みたいな映像と、モザイクのような低解像度の画像と高解像度の図像を交互に見せられるような映像。
(「画像」ではなく「図像」という言葉が使われていたのもちょっと気になる)
この映像を通じて、見た人を「チューニングする」といった感じなのでしょうか。
いとうさんが事前番組で言っていた「敬鬼神而遠之(キシンヲケイシテコレヲトオザク)」という言葉もこのUSBの動画中にありました。
そのためいとうさんの祓除師としてのキャラ作りは根本的にこの動画をモチーフとして作られたと推測できます。
一見怪しいこのUSB動画ですが、番組終了後に超心理学の研究者やスピリチュアル界隈から指摘がある程度にはクオリティがあったのだと思われます。
②いとうさんに実は霊能力的な素質があったから
個人的にはいとうさんには霊的な素質(?)のようなものがあったのかもしれないと思いました。
事前番組では、いとうさんは自身について「膿(邪気)が溜まりやすい体質」「体質と霊感は関係ある」と語っていました。
あくまでキャラ付けのための設定だった可能性もゼロではないのですが、私が視聴した印象ではいとうさんが語っていたこの辺りの話は本音を語っているような気がしました。
部屋が汚く不潔なこと、50代にして入れ歯であること、取材中も汗をかくことが多いなど、およそ健康的とはいえない描写が多かった印象です。
いとうさんの中に蓄積された邪気のような物が、儀式成立を後押しした?のかもしれないなと感じているところです。完全に推測に過ぎませんが。
いとうさんが山を訪れるシーンでも「霊をやっつけたり消滅させることはできない」と語るシーンがあります。
これもただの設定かもしれませんが、「霊的なものは消えることはなく、私たちの身近に存在している」ということを示唆しているのかもしれません。
感想:テレビ局の本気を感じた超湿度の高い本格ホラー
いやーこれは2023年にリアルタイムで追いたかった。
そんなめっちゃクオリティの高いホラー作品でした。
ジャンプスケア的なビックリ要素なくただ粛々と不気味なシチュエーションが積み重なっていく湿度の高いホラー、まさに私の大好物です。
これ詳細もわからないまま、祓除当日にわけわからないまま解散した観客の人ってどんな気分だったのでしょう…
テレビなんて最近まったく興味がありませんでしたが、こんな高クオリティなホラー作品を周年企画に入れてくるテレ東、ほんと最高ですね。
ここ最近はTVでのホラー企画ブームが再燃している気がするので、ホラーファンとしてはもっと盛り上がてくれると嬉しいなと思います。
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